5Gが医療業界にもたらす革新とは?

医療×IT


医療業界における5G


最近、5Gに関する本を読んでいます。(『5G教科書 ―LTE/ IoTから5Gまで』)

今後、本格的なIoT時代が到来すると、5Gのような高性能なモバイル通信技術は欠かせなくなりますし、医療現場もその例外ではありません。

 
医療分野で5Gが貢献できること、今後貢献できるようになることについて調べてみました。

5Gとは

そもそも5Gとは何でしょうか。

5Gとは、英語の「5th Generation」の頭文字で、「第5世代移動通信システム」を意味します。「次世代の通信規格」などと呼ばれてきましたが、すでにサービスが始まり、テレビCMで「5G」という言葉を聞かない日はありません。5Gが主流になると、モバイル通信でできることはさらに広がり、さまざまな新サービスが実現すると期待されています。

移動通信システムの進化

それ以前の世代についても簡単に触れておきます。

年代世代概要
1980年代1G・アナログ方式で通話専用、通信速度は約10kbps
・このころはまだ肩掛け式の携帯電話の時代
1990年代2G・デジタル無線技術のモバイルネットワークが標準化
・通信速度は最大でも約100kbps
2000年代3G・初めて国際標準が設けられた規格
・最大通信速度は2Mbps、周波数帯域は2000MHz
・将来の4G時代にも利用できる規格として、3.9G(LTE)も開発
2010年代4G・50Mbps~1Gpbsの超高速大容量通信の実現
・無線LANやWiMAX、Bluetoothなどと連携
2020年代5G・2020年に運用開始した次世代通信規格
・10Gbps以上の大容量・超高速通信が可能
・IoT社会のインフラ整備に必要不可欠な技術


通信技術・機器の進化により、約10年単位で世代交代が進んでいます。1980年から2010年までの30年間で、最大通信速度は約10万倍にも向上したといわれています。


出典:第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望 2019年6月27日 総務省

5Gの特徴

5Gの特徴は、「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」で、これらによって従来不可能だったサービスが次々と実現できるようになり、社会を大きく変えると期待されています。
4Gまでが基本的に人と人とのコミュニケーションを行うためのツールとして発展してきたのに対し、5Gはあらゆるモノ・人などが繋がるIoT時代の新たなコミュニケーションツールとしての役割を果たすといわれています。


「高速化」

10Gbps以上の大容量・超高速通信が可能であり、4Gに比べると通信速度は20倍です。

「超低遅延」

通信ネットワークにおける遅延、即ちタイムラグを極めて小さく抑えられます。例えば、ロボットの遠隔制御や遠隔医療といった分野においても超低遅延の効果が発現できます。

「多数同時接続」

基地局1台から同時に接続できる端末が飛躍的に増加しました。例えば、これまでは自宅でPCやスマートフォンなど数個程度の接続だったものが、5Gにより100個程度の機器やセンサーを同時にネットに接続することができます。


(出典)第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望 2019年6月27日 総務省

5Gによるメリット

5Gによって以下のメリットが考えられます。

①通信が快適になる
通信速度が20倍に超高速化することで、4Kや8Kといった高画質の動画もスムーズに快適に閲覧できます。

②通信の信頼性が向上する
遅延が4Gの20分の1になるため、信頼性を担保したリアルタイムな処理・対応が可能です。

③通信コストが削減できる
一度に接続できる台数が増加することで、中継装置などの導入コスト削減につながり、サービス・システムが普及・浸透します。

 
以上のような特徴・メリットから、4Gが「スマートフォンのための技術」だとするならば、5Gは「社会を支えるための技術」といわれています。

医療における5Gの活用

それでは、5Gは、医療業界において、どのような活用が期待されているのでしょうか。

ここでは4つの分野を取り上げ、どのような活用が期待されているかみていきます。

専門医による診療支援や画像診断

1つ目に、診察室と離れた場所にいる専門医をつなぐ方法が挙げられます。
専門医は患者の状況などを画面で見たうえで、患者と対面している医師に対して支援を行うことができます。これにより専門医にアクセスすることが簡単でない地域でも、地元の医療機関にいながら専門的な診療を受けることが可能になります。

 
2021年3月24日、長崎県、長崎大学病院、長崎県五島中央病院、社会福祉法人なごみ会、井上内科小児科医院、NTT西日本グループは、ローカル5Gを使った遠隔診療支援に関する実証実験結果を発表しました。

実証事業のひとつの「専門医の遠隔サポートによる高度専門医療の提供」においては、本土の長崎大学病院と離島の中核病院・五島中央病院とを光回線で接続し、五島中央病院内にはローカル5Gを構築しました。4K内視鏡や部屋全体を撮影する4Kカメラなどを使って撮影した五島中央病院での診療の映像を、ローカル5Gと光回線を使ってリアルタイムに長崎大学病院に伝送し、4K内視鏡カメラで送られてきた画像において、従来は食道炎と鑑別することがむずかしい食道がんを発見し、話題を呼びました。


長崎大学HP:2021年03月24日 ローカル5Gを使った遠隔診療支援に関する実証事業について


もう1つは、画像診断です。

CTやMRIで撮影したデジタル画像を、離れた場所にいる放射線診断専門医に確認してもらい、異常があれば指摘してもらう方法ですが、CTやMRIの画像はときに数百枚に及びます。5Gであれば、大量の画像データでも迅速に通信することができます。

 
2021年、内視鏡専門医の立ち会い協力の下、遠隔で診断補助を行うケースを想定した上で、5GやAI画像判定システムの有用性を検証しました。
5Gにおける検証では、通常の内視鏡検査時と比較して、ほぼ映像の乱れなどの遜色がなく、微細な血管やポリープなども鮮明で確認しやすいという結果がでました。


SoftBankHP:2021年 内視鏡検査映像を5Gで伝送してAIによる画像診断補助を行う実証実験を実施

遠隔手術

日本医療機器テクノロジー協会では、未来に考えられる手術室を「スマート手術室」として、以下のように示しています。

・IoTを活用して各種医療機器・設備を接続・連携させ、手術の進行や患者の状況を統合把握することにより、手術の精度と安全性を向上させる
・各種医療情報を「時系列の治療記録」として収集・提供(表示)し、手術室外の医師・技師等にも共有することにより、治療の効率性や安全性の向上を図る

出典:日本医療研究開発機構HP

出典:日本テクノロジー医療機器協会

上記の通り5Gを活用することで、より安全な手術の実施に貢献できます。

 
さらに手術ロボットを活用することで、離れた場所にいる複数の医師が協力して1人の患者を手術するといったことも期待されています。


日本医療機器テクノロジー協会では、難度が高くない手技は地域の医師で、難度の高い手技は高度技能医が担当するといった例を挙げています。
これにより専門医の少ない地域に住んでいても、専門医が多い都市部と同じレベルの医療を、地元にいながら受けることが可能になります。


出典:日本テクノロジー医療機器協会

VRやMR

VR(virtual reality)は、ゴーグルやヘッドセットなどの専用デバイスを装着することで、CGで描かれた仮想空間をリアルに体感できる技術で、「仮想現実」と呼ばれています
また、近年よく目にするMR(mixed reality)は、仮想世界を現実世界に重ね合わせて体験できる技術で、日本語では「複合現実」と呼ばれています。MRは仮想空間に現実世界の情報を反映させるもので、同じMR空間にいる人は情報や体験を同時に共有することが可能になります。


5Gの持つ高速大容量通信や、現実を自由な視点で見られるといった特徴は、VRやMR(複合現実)にも生かすことができます。

一例として、以下のような実証実験が行われています。


災害医療対応支援

災害医療対応支援に関する実証実験では、5Gの高速、大容量の特長を活用し、災害現場に高精細の360度カメラを設置しました。5Gを通じて映像をVR空間上に配信、投影し、VR空間内で医療従事者や消防機関が連携して現場を指揮・支援するシステムを構築しました。


出典:KDDI HP: 1. 災害医療対応支援に関する実証実験


医療画像のVR化
VRの活用により、見たい視点で状況を把握することが可能となります。


HoloEyesXR:患者のCTスキャン、MRIデータを3次元に再構成するアプリケーション。HoloEyesXRとVRヘッドセットやMRデバイスを利用することで、VR/MR空間で医療データを確認することができる。手術前の患部の確認など、医療分野におけるコミュニケーションを促進させる。

オンライン診療

インターネット回線を通じて行う「オンライン診療」は、IT技術を活用した新しい診療として期待されています。しかし対面診療とくらべると十分な診察ができないなどの理由により、普及が進んでいないのが現状です。

5Gにより、以下の進化が期待されています。

・高精細で滑らかな映像のやり取りが可能になる。患者の肌の質感なども感じられる診察環境が得られる
・ウエアラブルデバイスによるリアルタイムの患者モニタリングも、同時に実現する可能性がある

引用元:日経BP総研 オンライン診療の課題解決、「5G」の活用が糸口に

 
これにより、直接対面して診察できないオンライン診療のデメリットを、ある程度埋めることが可能になります。
今後、オンライン診療が可能な疾患や医療機関、および患者の数が増えることが期待されます。

5Gを活用するうえでの課題

5Gにはさまざまな期待がある一方で、いくつかの課題もあります。ここでは5Gを活用する際の課題を3つ取り上げていきます。

コストの問題

5Gの恩恵を受けるためには、5G対応の通信機器やIoT関連機器を新しく買い直さなければならないため、多額のコストがかかります。比較的予算が組みやすい総合病院とは異なり、個人病院で一から専門機器を買い揃えるのは難しい場合もあるため、5Gでの遠隔医療が実施されてもその恩恵を受けられる病院に格差が出ることが懸念されています。

セキュリティリスクの問題

通信中に悪意のある外部の者に乗っ取られ、勝手に操作されたり情報が流出するなどといったことはあってはならない事態です。
多数同時接続が可能になることでセキュリティリスクが高まる可能性があります。

新たな設備・技術を使えるようになるための知識習得

5Gを活用したサービスには使い方自体のわかりやすさはもちろん、画像などもわかりやすく表示することが求められます。

まとめ

いくつかの課題はあるものの、5Gの特徴である「超高速」「低遅延」「多数同時接続」によって、医療業界でも遠隔医療や救急医療などさらなる対応の精度が向上する可能性があります。5Gの実用化が進めば、遠方からの通院による身体的負担や、救急車両での患者搬送に伴う時間のロスを大幅に減らすことができ、また地方に住んでいてもより専門性の高い医療が受けられるようになり、とても有益なことだと思います。

 
5Gの今後の展開、とりわけ医療分野に影響する技術革新への期待は高まります。

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